6月××日、馬齢を重ねて5×歳になった。いや「なっていた」と記すほうが正確だろう。もう何年も自分の誕生日に思いを馳せることなどなく、クールビューティーズにプレゼントをもらって初めて気づくということを繰り返してきたから。
今年のその日は江の島にいて、なるほど日録の頁を繰ってみても歳にまつわる記述はない。というかあるにはあるが、それはこんな具合だ。
《日暮れを待って、砂浜ダッシュ20本。そのあとバットスイング左右で100回ずつ。今日の左は調子よい。1年がかりでブライス・ハーパーを真似てきたが、ほぼポイントを掴んだ気がする。オープンスタンスで構えて右肩を入れる理由がやっと判った。なぜバットを寝かせてボールを待つかということも。嬉しくなってさらにハーパー300回。弱冠24歳で自分の「形」を持っているとは驚きだ。俺も40年前にフォームを固めたはずだが、あれでは人生のへなちょこボールしか打てなかった。》
3週間ぶりに北都に戻り、お決まりの“ハピバースデー~♪”の合唱とともに手渡されたのがこれ。
「かなり過ぎちゃったけど、お誕生日おめでとうございまーす♡」
「はあ? 俺、49歳になったのか…」
「なにサバ読んでんっすか(このジジイ)」
「なんだか嵩張った包みだなあ。どうせなら嵩張りついでに真っ赤なアルト・ワークスが欲しかったな」
CB諸君、それはフフンと鼻であしらって、「さ、開けて開けて」
原始四叉ブーメランみたいな代物はもちろん投げるものではなく「坐るもの」だと言う。ひと目見てたぶんそういうものだろうなと思ったが、嬉しさを婉曲表現しただけじゃないか。
俺が椅子から立ち上がるたび、イテテと腰をさすっていたのを気に留めてくれてたんだ。レカロシートみたいなホールド感があって、背筋がピンと伸びて気持ちよい。椅子と接する底部が適度に湾曲しているので、上体を交互左右に傾けるたび体幹が刺戟される。なにより立ち上がってみて驚いた。まるで整体院から出てきたときのように腰が軽い。
「ふる里にもこれ持って飲みにいこう」と、思わず呟いた。
「あんなに喜んでるよ。安い買物だったね」
壁のむこうでツキカがみんなに囁く声がした。